飛騨牛

世界の食通を唸らせるブランド牛肉

十年以上前のことである、下呂市で全国的な式典が開催された年、私は郡上市のとあるキャンプ場で、県内の食品事業者が集まるバーベキュー大会に参加していた。飛山濃水の大地が育む食材や美酒との百人組手、奥美濃古地鶏・けんとん、飛騨牛のブランド肉グランドスラムも達成して、そろそろデザート、という時にそれは現れた。

 

厚さ約25㎜、幅約300㎜、重量1.5㎏のA5等級の飛騨牛サーロインステーキ。薄桃色に見えるがよく見ると、上質な赤身に粉雪のようなサシが入った芸術的な霜降り肉。「飛騨牛」の名付け親でもある老舗の食肉加工事業者(吉田ハム本舗)が持参し、さる“やんごとなき方”に献上した個体から採れた極上肉である。

 

まずは軽く炙った程度の表面を削いでそのまま口へ。「あー、んまいっ!」鼻腔を抜ける香ばしさ、口中に広がる脂の甘さ、柔く優しい噛み応え…。続いて、片面ずつ1分ほど焼き、賽の目に切ったレア・サイコロステーキに岩塩を少々つけて、壺振りよろしく2つ同時に口中に投入。加熱されて旨味と風味が倍増、程よい噛み応えと噛むたびにあふれる肉汁、これで良い目が出ないわけがない。味1番、香り1番の、ピンゾロ(1・1)の丁ときたもんだ。さすがは、和牛のオリンピック「全国和牛能力共進会」のチャンピオン牛(第8回大会[平成14年])である。

 


最後は、さらに両面を2分ずつ焼いてミディアム・レアに、深部の赤身がほんのりピンクに、噛み応えも増し、あたたかな肉汁がほとばしる、まさにステーキの王様。そろそろデザートのはずだったのに、恐るべし飛騨牛。良質の脂はしつこくなく、赤身の豊かな滋味(血肉を作るたんぱく質、みなぎる活力の亜鉛、疲労回復に抜群のヘム鉄が豊富!)とも相まって、食べ飽きることなく、いくらでも食せる、喰らえる、食欲の無限ループへと誘われる・・・。

 

昭和56年に、名牛「安福号」が兵庫県より飛騨の地に降り立って以来、守り継いできた飛騨牛の遺伝子。飛騨地域の清らかな水と澄み渡った空気、季節の寒暖差と昼夜の気温差など、肉牛の成長に最適な自然環境。そして、肥育農家の絶え間ない努力と深い愛情。飛騨牛が美味いのは必然なのである。

 

40年かけて磨き上げられた飛騨牛は、「Delicious!」、「Delicioso!」「Délicieuse!」「好吃!」「好食!」・・・、今や12の国と地域に住む人々が舌鼓を打つ、世界ブランドに成長している。

 

かくゆう私は、書きながらドーパミンが出てまいりました。涎も出てまいりました。さあ、今日は定時きっかりに帰って、スーパーで飛騨牛を買うぞ!

(N.S)