島崎藤村の名作「夜明け前」の舞台

木曽路はすべて山の中-馬籠宿

江戸時代における五街道の一つ、中山道は江戸と京都を結ぶ重要な街道で、全長135里32丁(約534km)に69の宿場が置かれました。そのうちの17宿(126.5km)が岐阜県の美濃地方を東西に横断しており、今も往時の面影を色濃く残しています。

 

江戸時代にタイムスリップしたかのような街並みが続く長野県の妻籠宿を抜け、京を目指して県境の峠を越えると見えてくるの馬籠宿。石畳の美しい坂に沿って続く宿場町で、展望台からは雄大な恵那山を一望でき、外国人観光客にも大変人気の高いスポットです。

そんな、馬籠宿は、文豪・島崎藤村の誕生の地であり、藤村の代表作である「夜明け前」の舞台にもなっています。「木曽路はすべて山の中である」という有名な書き出しで始まるこの作品は、藤村の父・島崎正樹の生涯をモデルに、明治維新前後の動乱の世相を描いたものです。

 

作品の中に度々登場する高札場や、作中では万福寺として登場し衝撃的なエンディングの舞台ともなった永昌寺など、ゆかりの場所がそのまま残っており、文学散策が楽しめるのも馬籠宿の大きな魅力のひとつです。

小説の舞台をめぐり、少し小腹が空いたときには、作中では御弊餅として登場する馬籠宿名物の五平餅を頬張るとさらに散策を楽しめることでしょう。

 

令和2年(2020)、「日本遺産」の認定で、木曽地域の「木曽路はすべて山の中〜山を守り山に生きる〜」の構成文化財に追加認定された藤村記念館も必見です。藤村の生家で、馬籠宿の本陣・問屋・庄屋を兼ねる旧家の跡に造られた記念館には、全ての作品、直筆原稿、周辺資料など約6,000点が所蔵・展示されており、藤村が幼少時代に学習していた「隠居所」が当時の姿のまま残っています。

 

島崎藤村が残した名作「夜明け前」を読んだ後に、作中の景色を思い出しながら馬籠を散策し登場人物の思いに触れるとさらに作品を楽しむことができることでしょう。そして、これから読まれる方は、馬籠の雰囲気を肌に感じた後に読むことで、作品をより身近に感じることでしょう。(Y.S)


【夜明け前~あらすじ~】

主人公の半蔵は、馬籠宿で17代続いた本陣・庄屋の当主だが、平田派の国学に心酔。やがて明治維新を迎え、待ち望んだ王政復古の実現を信じて歓喜する。しかし現実は、西洋文化を意識した文明開化と、政府による民へのさらなる圧迫などにより、慎ましく生きる人々を苦しめる。

時世に何度も裏切られ、やがては絶望のあまり心を病んだ半蔵。「わたしはおてんとうさまも見ずに死ぬ」と言い残し、閉じ込められた座敷牢で56歳の生涯を終えたのだった。