五平餅

半殺しの餅に魅惑のタレ 最強ソウルフード

岐阜県民ならだれもが知っている「五平餅」。お米を潰して(もち米ではなくてうるち米、ここPOINT!)串に巻きつけ、甘じょっぱいタレをつけて焼いた食べ物である。お餅のようでお餅でない、団子のようで団子でない、軽食のようなお八のような、唯一無二のファンタスティックなソウルフードである。あわせて、岐阜県をはじめ、愛知県や長野県など、中部地方の山間部で愛されてきた郷土料理、江戸の昔から中山道木曽路の味覚として、地元だけではなく街道を行き交う人々に愛されてきたストリート・フードでもある。

 

その名前の由来は、五平さんという人物(誰やねん!)が、握ったご飯に味噌をつけて焼いて食べたことから名付けられたという説と、神事に使われる御幣に似ているからという説など諸説あり。その形状も多様で、中山道よりも南はわらじ型、北はだんご型が多いと言われ、岐阜県はその両方が存在する五平餅文化におけるガンダーラのような存在である。

味の決め手ともいわれるタレは、醤油や味噌をベースとして、みりんやお酒、砂糖などの調味料やクルミやピーナッツをすり潰してコクと深みを加えるなど店や家庭ごとに秘伝のレシピがある。このタレが五平餅の魅力の大部分を占めているかのように思われがちだが、実は最も良い仕事をしているのはベースの“半殺し”のご飯である。

 

この“半殺し加減”が重要であり、皆殺し(そんな言い方はしないが・・・)ではダメ。いささか物騒な雰囲気になってきたので補足すると、“半殺し”とは、「ほとんど死ぬくらいの状態になるほど痛めつけること」ではない、「ぼた餅の餅を作るのに、炊いた飯の飯粒が半分くらい残る程度に潰すこと」である。うるち米を使うのもポイント、粘りが出る手前、五分ほど粒を残した頃合いで形成すると、もち米の重さはなく、適度な粘りと軽やかさを保ちながら粒にしっかりとたれが絡む。素焼きすれば粒を中心に香ばしさが増し、タレを塗って焼き重ねれば、うるち米の適度な歯ごたえや焦げの香ばしさが引き立ち、何本でも食せる魔法の仕上がりになる。このうまさ、中山道木曽路に封印しておけるわけがなく、今や日本中が、世界が、そのうまさの魔法にかかろうとしている。

 

2016年公開の世界的ヒットをしたアニメ映画「君の名は。」には五平餅が登場。全国(世界)のアニメファンたちが聖地巡礼で飛騨古川駅を訪れる際には、モデルとなった「味処古川」で五平餅を頬張るのが定番スタイルで、まるで洗礼における聖体のようになっている。

さらに、2018年放送のNHK朝の連続テレビ小説「半分青い。」で、ヒロイン鈴愛の師匠役、トヨエツ扮する天才少女マンガ家の秋風先生が劇中で食し、「うんま!」と絶賛したことから、その知名度は全国区に。その年、年間全体を通じて前年比約2倍、特にGW中は4倍超の売り上げを記録する五平餅ブームが生まれた。

 

岐阜のソウルフードでありながら、ワンハンドスタイルのファストフード、動物性食材を含まずビーガンも楽しめる、さらに、甘じょっぱくてコクがある味は、海外でも大人気の「Teriyaki」にも重なる。ニューヨーカーたちが、おしゃれに「GOHEI」を食べている日が来るのも近いかもしれない。(N.S)

五平餅 合わせ盛り
五平餅 合わせ盛り
五平餅 わらじ型
五平餅 わらじ型
五平餅 団子型
五平餅 団子型