ぎふの清流が育む「地酒」

一般的に地酒というのは、全国規模で流通する大手の酒蔵の日本酒に対して、生産量が少なく、決まったルートや生産地周辺だけでしか流通しない日本酒のことだ。

岐阜県には約50もの酒蔵があり、その数は都道府県ランキングで常にトップ10に入っている。いずれも歴史が長く、豊かな清流に育まれた酒はそれぞれに個性豊かで、まさに“地酒”と呼ぶに相応しいものだ。

 

たとえば杉原酒造(揖斐郡大野町)が醸す「射美(いび)」という酒は、「日本一小さな酒蔵」としてメディアなどで話題にのぼるのだが、その生産量の少なさから、飲みたくてもなかなか“お口”にかかることのない幻の酒で、インターネットでは抽選販売となっている。 

 

地酒をめぐる観光と言えば「飛騨高山 酒蔵めぐり」が有名だ。高山観光のメインスポットである古い町並みが続く上一之町、上二之町、上三之町、その歩いて回れるほどの距離に7つの蔵元(平瀬酒造店、川尻酒造場、二木酒造、平田酒造場、舩坂酒造店、原田酒造場、老田酒造店)が点在しており、雪化粧をした冬の高山のまちをそれぞれに個性の違う地酒を少しづつ楽しみながら散策するのは日本酒好きにはたまらない体験だ。高山名物の塩せんべいや飛騨牛のすしなどをつまみにするのも楽しい。

 

高山の地酒めぐり十分に魅力的だが、実は私のおススメはちょっと違う。名古屋から車で1時間ほど、電車ではJR岐阜駅から35分ほどの美濃加茂市を中心とする加茂エリアには、車なら1日でまわれてしまう距離に小さな酒蔵が6つ(御代桜醸造、松井屋酒造場、白扇酒造、平和錦酒造、蔵元やまだ、花盛酒造)あり、金賞常連蔵や、神様がお酒を買いに来る蔵、絶品の味醂を造る蔵など、味やストーリーもそれぞれに魅力的なお酒が楽しめる。新酒の時期、蔵開きイベントを目当てに酒蔵巡りをするのも新春の大きな楽しみだ。(ハンドルキーパーには辛いですが・・・)

 

特徴ある蔵を挙げるときりがないが、お酒を楽しむ酒器が豊富なのも岐阜県の特徴だ。

お祝い事には欠かせない木枡は大垣市が日本一の生産量(シェア80%)を誇る。作りたての木枡はなんとも言えないヒノキの香りが地酒の味を一層美味しく引き立てる。粗塩を手の甲に載せてペロリっとしながら、木枡になみなみと注がれた酒を口からお迎えするのは日本の麗しき酒飲みの作法ではないか。(木枡は本来コップの受け皿に使うものではない。)

約1300年の歴史と伝統をもつ「美濃焼」は、多治見市市之蔵の盃、土岐市石下(おろし)・駄知(だち)の徳利が古くより産地として名を馳せている。「市之倉さかづき美術館」は酒器のショップも充実しており、日本酒愛好家には是非おススメのスポットだ。

 

冬から新春かけては、しぼりたてのフレッシュな爽快感と日本酒本来の香りを楽しめる「新酒」、春には味は少々甘めで、春らしい華やかな香りの「春酒」、夏にはさらっとした喉ごしの良い冷酒でスッキリいただく「夏酒」、秋にはまろみが増え、うまみも増した「ひやおろし」と同じお酒でも四季を通して楽しめる地酒と、季節ごとに移り変わる岐阜の自然をめぐる旅に是非おでかけいただきたい。(N.H)



酒蔵開きフォトギャラリー