薄荷色の水面を眺めながら、ユキは銀器の氷菓を食べ終えた。
添えてあったウエハスは、いつ口に運べばよいのか、いつも迷う。
正しい食べ方を知っている大人は、いるのかしら。
ほうき星みたいに小魚が鱗を光らせて流れていくのを眺めながら、ユキは祖母の昔話を思い出した。
むかし、たらいを舟にして、お城からこの川の暗闇へ逃げた女の子がいるというお話。
千夜一夜の物語。
そんなの暗くて寂しくないのかしら、わたしなら、アセチレンランプを持っていくわ。きっと、コメットみたいに見えると思う。
チョコレットも忘れない。
こんど、家のたらいでやってみよう。こぐ練習もしなくては、長い竹竿も必要ね。
上手くいったら、瑠璃子さんも乗せてあげよう。
いつしか、ベルヴェットの空に明星が出ている。星を売る店が開く頃合い。
ユキは、あわてて編み上げ靴の紐を結わえなおした。